平成19年4月
                                    佐藤社会保険労務士事務所
                                    社会保険労務士 佐藤信吾

           人事制度運用のポイント

             〜上司と部下の「仕事の対話」(評価・面接)がカギ

T.はじめに

 ・もともと経営者は
 会社の発展のために、社員1人ひとりが能力を発揮することを望んでいる。 
                               〜 社員に期待している。
 ・もともと社員は
 この会社で能力を発揮することで、働きがい自己実現を望んでいる。
                              〜 成長、貢献したい。

 でも、次のような相談を受けることがよくあります。



 この事例は、管理者研修のときに参加者の方に意見を出し合ってもらいますが、おおむね、次のような回答が大勢を占めます。


●どこが問題なのか?
@ 具体的な目標・ビジョンが示されなければ、社員はどう動いてよいかわからない。
A 目標・ビジョンがないので、個々の社員は行動計画を立てようがない。
B 認められた行動計画がないと、間違った方向に進んで、大変な思いをしたくないという気持ちが強くな
 り、現状肯定的になる。


●こんなふうに改善してみたら?
@ 現在の自社がおかれている状況を、納得のいくまで説明し、部門として期待される役割・課題を認識さ
 せる。
A 期初に社員一人ひとりと面接を行い、部門の目標・ビジョンに基づくその人の役割を書面に明記し、
 6ヵ月後に成果を評価する。また、役割や貢献度を反映する報酬システムとする。
B 目標・ビジョンはわかりやすく現実味のあるものとする。最初から実現可能性のないものではチャレ
 ンジする気持ちは生まれない。
C 経営者が個々の社員に求める能力・行動とは何かをはっきりさせる。


さて、ここでお尋ねします。

 
次のうち、どちらがより「高い成果」が望めるでしょうか?

 <パターンA>
  経営計画からブレイクダウンし、社員個別にその役割や職責、要望事項を伝達・共有化する。

 <パターンB>
  役割や要望は明確に示さず、「アウン」の呼吸で成果を求める。


もう1つお尋ねします。

 次のうち、「働きがい」を感じているのは誰でしょうか? それはなぜ?


ある人が3人のレンガ積み職人に『何をしているんですか』と尋ねてみると、
職人A: 『レンガを積んでいるんです』
職人B: 『壁を作っているんです』
職人C: 『大聖堂を作っているんです』
                          と答えた。



U.先が見えない時代

 世の中は180年で一巡する。これを60年ごとに区切り、最初の60年が「上元」、次の60年が「中元」、最後の60年が「下元」で、「上元」と「中元」は一定の秩序のもとに安定した時代であり「治世」の時代といわれ、「下元」は今までの秩序が崩壊し新たな秩序が構築される時代であり「乱世」の時代といわれます。
 「下元」は、1985年の「円安・ドル高」是正の協調介入を合意した「プラザ合意」あたりから始まったといわれていますので、あと40年近くは「乱世」の時代が続くことになります。(竹内日祥氏講演、乱世を行き抜くリーダーの条件より引用)




 確かに、今の日本は規制緩和や国際化が急速に進み、ビジネスのルールが激変しています。昨年はルール内だったことが、今年はルール違反という事例が多く見られるようになりました。絶対倒産しないといわれていた大企業や金融機関も倒産するような時代です。環境変化の不確実性・複雑性が高まり、
まさに「先が見えない時代」です。 

 高度・安定成長期の日本においては、
@市場的には、「何が売れるかがわかる」時代であり、企業は「より品質の良いものを、より安く、より
 短時間で提供すること」に対して注力してきました。
Aそこでの社員に対する期待は「全員の力を結集」ことであり、
B人材としての要件は「従順で、所定の役割を果たす人」であったといえます。
 
 しかし、現在の日本においては、
@市場的には、「何が売れるかわからない」時代であり、企業は「何を作れば売れるか、何をすれば変化
 に対応できるか」に対して苦慮しています。
Aそこでの社員に対する期待は、
新しい価値の創造のために「各人がそれぞれ考え、知恵をもちよる」こ とであり、
B人材としての要件は
「自ら考え、行動する人(自律した人)」であるといえます。ただ単に従順で言われ
 たことを果たすだけの「指示待ち族」では人材の要件たりえません。まさに、
「仕事に人をはりつける
 時代」
から「人が仕事を創る時代」に変わったのです。

 社員に対する期待が「各人がそれぞれ考え、知恵をもちよる」ことといっても、皆がバラバラに考え、行動しても成果は上がりません。経営計画や部門方針、個人ごとの期待像を示し、進むべき
ベクトルを1つにしなければなりません。


V.組織とは

 仮に一人で事業を興し、会社を創ったならば、全ての事を独りでやらなければなりません。そしてその会社が周りから支持され、売上も伸び、業務が拡大してくると、自分一人で全てをやることができなくなります。そこで社員を一人、二人と雇用していくことになります。
 そうすると、これまで一人でやっていた仕事を分担し、他の人の協力のもとに共通の目標を達成しようとします。これが組織の始まりです。

 小学館「言泉」によれば組織とは、
「一定の目的があり、成員の地位と役割と相互関係が決められているような人々の集合体。また、それを組み立てること。広義には一定の機能を持ちつつ、部分と部分が関連しあって全体として結合を保っているもの。」
とあります。
これを経営の観点から定義付けると、次のようになるでしょう。

  組織とは
  ・2人以上の者が、
  ・同一の目標に向かって、
  ・それぞれの役割を分担して、
  ・目的を果たすために集まったもの


 人間一人一人の力は極めて小さいものです。しかし、その小さな力でもそのうちの積極的なものを結合させるならば、計り知れない大きな力となることが可能です。
 まさに、組織の目的は「シナジー効果」を出すことです。

 一方、組織とは一人一人違った感情を持った人間の集まりであるため、全体をまとまりのあるものにしていくためには、いくつもの困難がつきまといます。
 人間が増えるため効率が悪くなり、利益が上がらなくなることも少なくありませんが、このような状況では組織を作った意味がありません。
 これは、組織が持つべき基本的な要件を満たしていないことが原因となっていると考えられます。

 組織が持つべき基本的要件とは
 ・組織構成員に共通する目的・目標があること
 ・仕事が分業化されており、役割が明確であること
 ・縦横のコミュニケーションが円滑に行われるようになっていること
 ・組織構成員が相互に関連を持ち、協力の意思と意欲があること
 ・組織共通のルールがあること

 といえます。


 アメリカの電話会社の社長であり、経営学者であるチェスター・バーナードも、組織の成立には、個人の努力を組織目的に寄与する意志「協働意志」と、目的なしに組織は生まれないから「共通の目的」、さらに組織の諸要素を結合する「コミュニケーション」の3つの要素が必要であると論じています。


  つまりは、『対話』がなければ組織は成り立ちません。


W.人事の理念とは
 「人事の理念」とするところは、
  @高い成果 =「仕事」
  A働きがい =「人」
  B公平な処遇 =「賃金」

  の3つをそれぞれ成長拡大させ、高い位置で均衡させることにあります。

 高い成果とは、まさに組織の目的である「シナジー効果」の発現です。





 働きがいとは、日常の職務活動を通じて、自己充足、自己主張がおこなわれる状態を指します。自己充足とは、能力開発のことであり、仕事を通して人間としての成長によって得られる喜びであり、満足です。自己主張とは、経営への参画意識のもと能力が思う存分仕事の場で発揮されている状態であり、それはまた能力が有効活用されている姿でもあります。










 公平な処遇とは、役割や貢献度にもとづき賃金などを決定していくことです。




 「人事の理念」を達成するためには、きちんと評価し、その評価結果を反映させることが重要です。また、きちんと評価するためには、その前に役割分担を含めた期待像の明確化が不可欠であり、期待像の明確化も評価結果の反映も面接を通じて行われます。
 つまりは、評価・面接は単に賞与や昇給の配分のために実施するのではなく、人事の理念(高い成果・働きがい・公平な処遇)の実現のために実施するものなのです。



X.働きがいのある『知恵結集』型の組織を目指して

 先が見えない時代は、ベクトルを1つにし、「みんなで知恵を出し合って」のごとく、社員の参画を求めた『知恵結集』型の組織運営が求められます。

 また、人事管理面では、従来と同様の昇給を維持することが困難な中、社員のモチベーションを維持していくためには、社員にとって「働きがい」のある職場にする必要があります。

 そのためには、
 @経営計画・部門ミッションの共有化
 A役割の分担と協力関係の確認
 B部下の知恵の引き出し
 C部下の職務活動・能力開発の支援
 D部下の成果行動に対する承認・評価

 が不可欠であり、

 上司と部下の『仕事の対話=評価・面接』がカギとなります。



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