平成17年1月
企業の社会的責任とPREP

長崎県 佐藤 信吾
 

1.高齢化社会の進展と生涯現役の必要性
 2002年1月の新人口推計によると「20歳から64歳までの人口」と「65歳以上の人口」の推移は、2000年では3.6:1、2025年では1.9:1、2050年では1.4:1、2100年では1.5:1となる見込みです。
 これを主な背景として公的年金の改正が実施されました。内容は、60歳開始だった年金が段階的に65歳開始となり、掛金は毎年上昇していくものの、年金額は段階的に削減されていく、というものであります。会社員としては定年後の経済的な不安が大きくなるばかりです。



        公的年金の給付と負担の見直し

従来方式(給付水準維持方式) 新しい方式(保険料固定方式)
給付水準(厚生年金) 厚生年金の保険料率
 手取賃金の59%を維持  段階的引上げし18.3%に固定
厚生年金の保険料率 給付水準(厚生年金)
 13.58%⇒23.1%(2030年度以降)  段階的引下げし(2023年度以降)50.2
 %で下げ止まると推計
国民年金の月額保険料 国民年金の月額保険料
 13,300円⇒20,500円(2016年度以降)  段階的に16,900円(現在価格)まで
 引上げ(2017年度から)


                                   2004年 年金制度改革


 生命保険文化センターによれば、ゆとりある生活には38万円が必要とされています。それに対して収入面では、公的年金の平均が23万円となっており、あとは退職金や企業年金などにたよることになりますが、業績低迷と低金利の影響で今後はこれに多くを期待するのは難しい状況となっています。
 そうなると多くの会社員は必然的に定年後も「働き続けること(生涯現役)」を目指すことになります。

 「働き続けること(生涯現役)」は経済面のみならず精神面、心身機能面にもプラスに働きます。つまりは、仕事を通じて自分の能力を発揮する(能力の発揮→課題達成→評価・報酬)ことにより精神的な満足感を得ることができ、また仕事を通じて使うことで身体機能はその機能低下を抑制できます。

 スイスの心理学者ユングは「幸福の条件」として次の5つをあげています。
@心身ともに健康であること。
A自分で程よいと思う程度のお金を持っていること。
B美しいものに感動する能力を持つこと。
C幅広く豊かな人間関係を持つこと。
D朝起きた時に、その日にやらねばならぬ仕事があること。
 このように仕事を持ち続けることは幸福な人生を送るうえで大変重要な要素であるといえます。

2.必要人材が変わった
 高度・安定成長期の日本においては、
@市場的には、「何が売れるかがわかる」時代であり、企業は「より品質の良いものを、より安く、
 より短時間で提供すること」に対して注力してきました。
Aそこでの従業員に対する期待は「全員の力を結集」ことであり、
B人材としての要件は「従順で、所定の役割を果たす人」であったといえます。

 しかし現在の日本においては、
@市場的には、「何が売れるかわからない」時代であり、企業は「何を作れば売れるか、何をすれば変
 化に対応できるか」に対して苦慮しています。
Aそこでの従業員に対する期待は「各人がそれぞれ考える」ことであり、
B人材としての要件は「新しい価値を提案できる人(自律した人)」であるといえます。

 日本賃金研究センターの野原茂氏はその著書(部下のやる気を高める目標のきめ方)の冒頭「人材戦略」の中で、『従来のマネジメントの教科書では「管理者は、部下を通じて成果をあげる人」であった。しかし、今日では「部下とともに成果をあげる人」と書き改める必要を感じる。今日のように企業の内外環境が厳しく、なおかつ変化のスピードが激しい時代においては、過去の経験の蓄積だけでは変化に対応しきれるものではなく、また管理者個人の判断だけでは正しい決定を下しにくくなってきている。押し付けのコントロールではなく、「参画」で関与、関心をもたせねばならない。そこで、「みんなで知恵を出し合って」ではないが、部下の参加や参画を求めた衆知結集型のマネジメントが台頭してきた。経営参加、参画による経営がこれである。』と記していますが、これに応えられる人材、まさに望月衛氏(社団法人中高年齢者雇用福祉協会理事長)がいう「経営職」となりうる人材こそが必要とされる人材といえましょう。
 「経営職」とは、「組織や職務を管理する以上に、自ら事業を創造し変化に対応できる問題解決能力 をもったプレーイングマネージャーであり、さらに、常に視野を広げて新しい仕事へチャレンジする管理職」をいいます。(「サラリーマン人生の危機管理」より引用)
 このように、多くの会社員が目指すとおりに仕事を持ち続けるためには、この厳しい現実を認識し、自らが意識改革する必要があります。


3.企業の社会的責任
 平成16年6月に年金法の改正とともに高年齢者雇用安定法の改正が可決されました。つまり、公的年金の不利益変更の補完として定年後の継続雇用が義務化されたわけです。
  

 

 しかし、企業にとっては継続雇用はさらなる人件費の増加につながり、そのままでは事業の活性化の阻害要因にもなりかねず、企業の論理からすれば社会的責任として無理やりに納得せざるを得ないというのが正直なところでしょう 。
 企業は、この「継続雇用の義務化」に対応するために、
@高年齢者の経験を活かす職場の確保
A高齢になっても安心して働けるための定年後の就業形態や賃金等に関する制度の整備
B高齢になっても働くことを可能にする能力開発
C高年齢者の能力を充分に発揮させるような職場環境の改善 
など、取り組まなければならないことはたくさんあります。
 しかし、現在の厳しい環境を考えると「継続雇用者」の単なる受入れのための制度面・環境面の整備だけで十分とはいえません。
「継続雇用者」に対しては、賃金の見直しや役割の見直しなどの環境変化を求めることになりますが、意識改革のないままそれを実行しますとモチベーションの大幅な低下をまねくおそれがあります。
 人生の転機ともいえるこの環境変化に対応するには、早くから現実を見つめ、定年後にむけての再出発をきる心構えを持ってもらうことが重要となります。
 企業としては、その意識改革の支援とともに、職業生活から個人生活への軸足の移動をスムーズに行えるための支援も重要となります。
 むしろ、そこまでできて初めて少子高齢化に対する企業の社会的責任を真に果たしたということになるのではないでしょうか。


4.PREPの活用
 PREP(退職準備生涯生活設計教育プログラム)とは、人間の一生のなかにある職業(労働)生活や個人生活、家庭生活などの現実を考えさせ、ライフ・ステージごとに自己の有意義な生活の仕方を自覚、認識させるとともに、自助努力、独立の精神を涵養し、人生における生きがいや自己充実を考えた退職準備、退職後の老後生活をも計画させ、社会生活環境への適応と自立をはかるための教育研修です。
 この研修の従来のものと異なるところは、高齢化社会による新しい社会条件を満たすために必要な社会に開かれた人間、脱仕事人間をも育てることが大切ではないかという点であります。(望月衛氏著書「経営教育としてのPREP教育プログラム」113頁から114頁)
 上記に記した「少子高齢化に対する社会的責任」を企業が効果的に果たすツールとして、PREPの積極的な活用を切に望むものであります。